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後宮に蝶は舞いて~Everlasting love~第二部
第14章 第二話 龍神の花嫁~風舞う桜~
***************(本文より抜粋)
わずかに身を乗り出すようにした彼は、刹那、息を呑んだ。流石のコンも眼下に広がる光景が現実のものとは思えなかったからだ。
洞窟内に満開の桜が咲いている。周囲は蒼白く発光している岩壁が取り巻き、天井、床といわず氷柱のような透明な結晶が散らばっていた。時折、長剣の切っ先を思わせる結晶が光を放ち目映い煌めきを放つのは眼を奪われるほど美しい。
今が春たけなわであることを考えれば、桜が咲いていても不思議ではない。あの老婆は孫娘の供養にと洞窟内に桜の苗木を植えたと話していた。信じていなかったわけではないが、よもや、このような見事な桜だったとは。
だが、洞窟内で植物が育つのは難しいはずだ。そこで、彼はハッと頭上を見上げた。この洞窟は完全に陽光が遮断されているわけではない。天井の一部がポッカリと空いて、澄んだ清らかな月明かりが桜に惜しみなく注いでいる。
何とも摩訶不思議で見事な風景だ。コンはしばらく言葉もなく洞窟で咲く桜を眺めた。
その間も岩壁や結晶は蒼白い光を放ち輝き、満開の桜花がその輝きを反射して煌めく。ここは間違いなく現世から隔絶された異世界の様相を呈している。村人たちがここに龍神が棲んでいるといまだに固く信じているのも納得はできるような気がした。
七十年前、最初の生け贄が捧げられた当時、この見事な桜は存在はしていなかった。が、桜がなくとも、十分に人智を越えた神秘的な空間であったろう。
桜の樹がそびえる場所が辛うじて緑に覆われ、そこから先は静かな波が洗う泉になっている。あれが源泉なのだ。
あまりに穏やかで美しい光景だけに、ここで無垢な少女たちの生命が奪われたという残酷な事実がかえって凄惨さを際立たせるようだ。
桜はやや盛りを過ぎているのか、樹下にはあまたの花びらが散り敷いていた。慎重に眼下を眺め降ろしていると、桜の樹に一人の少女が括り付けられているのが眼に入った。
ー雪鈴だ! コンはその瞬間、怒りに身体中の血が沸きたつかと思った。
わずかに身を乗り出すようにした彼は、刹那、息を呑んだ。流石のコンも眼下に広がる光景が現実のものとは思えなかったからだ。
洞窟内に満開の桜が咲いている。周囲は蒼白く発光している岩壁が取り巻き、天井、床といわず氷柱のような透明な結晶が散らばっていた。時折、長剣の切っ先を思わせる結晶が光を放ち目映い煌めきを放つのは眼を奪われるほど美しい。
今が春たけなわであることを考えれば、桜が咲いていても不思議ではない。あの老婆は孫娘の供養にと洞窟内に桜の苗木を植えたと話していた。信じていなかったわけではないが、よもや、このような見事な桜だったとは。
だが、洞窟内で植物が育つのは難しいはずだ。そこで、彼はハッと頭上を見上げた。この洞窟は完全に陽光が遮断されているわけではない。天井の一部がポッカリと空いて、澄んだ清らかな月明かりが桜に惜しみなく注いでいる。
何とも摩訶不思議で見事な風景だ。コンはしばらく言葉もなく洞窟で咲く桜を眺めた。
その間も岩壁や結晶は蒼白い光を放ち輝き、満開の桜花がその輝きを反射して煌めく。ここは間違いなく現世から隔絶された異世界の様相を呈している。村人たちがここに龍神が棲んでいるといまだに固く信じているのも納得はできるような気がした。
七十年前、最初の生け贄が捧げられた当時、この見事な桜は存在はしていなかった。が、桜がなくとも、十分に人智を越えた神秘的な空間であったろう。
桜の樹がそびえる場所が辛うじて緑に覆われ、そこから先は静かな波が洗う泉になっている。あれが源泉なのだ。
あまりに穏やかで美しい光景だけに、ここで無垢な少女たちの生命が奪われたという残酷な事実がかえって凄惨さを際立たせるようだ。
桜はやや盛りを過ぎているのか、樹下にはあまたの花びらが散り敷いていた。慎重に眼下を眺め降ろしていると、桜の樹に一人の少女が括り付けられているのが眼に入った。
ー雪鈴だ! コンはその瞬間、怒りに身体中の血が沸きたつかと思った。