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後宮に蝶は舞いて~Everlasting love~第二部
第27章 最終話 【Blue Lotus~夜の蓮~】
******************(本文から抜粋)
コンは王衣ではなく、青灰色のパジチョゴリを纏っている。あたかも今宵の空に浮かぶ月の光をより集めて織り上げたかのような、光沢ある美しい色合いだ。一方の雪鈴といえば、当然ながら純白の薄い夜着一枚だ。良人でも恋人でもない男の前で見せる姿ではない。
コンが切なげに綺麗な眉を寄せた。
「そなたを忘れたことはなかった」
そう、まるで去年の初夏の別離にまで刻を遡ったかのようだ。その間にコンと再会して交わした上辺だけの空しい言葉の応酬、あれらがすべて存在せず、雪鈴が別離を一方的に告げたあの雨の朝からいきなり今、この瞬間へと時が飛んだような錯覚さえしてしまう。
眼前に佇む彼は、雪鈴がよく知る昔のコンだった。
雪鈴の眼に大粒の涙が溢れた。
コンが大きく両手を広げる。雪鈴をなおも細い理性の糸がその場につなぎ止めていた。
「そなたを苦しめるのは俺の本意ではない。だから、そなたが本当にそこまで俺を嫌うなら、もう今夜で止める。二度と雪鈴に近づくこともなく、そなたの心を乱すようなこともしない」
やはりと、思った。コンは今夜を区切りにするつもりだったのだ。雪鈴は彼に向かって一歩を踏み出した。最初はゆっくりと歩いていたのが、いつしか早足になり駆けていた。
コンもまた雪鈴に向かって走っていた。二人はどちらからともなく抱き合った。
コンが雪鈴を強く抱きしめた。
「まさか来てくれるとは。夢を見ているようだ」
コンが雪鈴の髪に顎を乗せ、想い人の香りを胸に吸い込む。雪鈴もまたコンが衣にたきしめた若葉の清々しい香りを心から懐かしんだ。
コンの少しくぐもった声が降ってくる。
「済まぬ、そなたを追い詰めるつもりは毛頭ないのだ。そなたが止めてくれというなら、今夜を最後の歓びとして雪鈴への想いは生涯封印すると誓おう。そなたにみっともないところばかり見せて、これ以上嫌われたくない。俺にもまだ少しは男として誇りが残っていたということだ」
雪鈴は小さく嫌々をするように首を振った。
「あなたを忘れられるなら、いっそ、その方がどれだけ楽だったでしょう」
コンは王衣ではなく、青灰色のパジチョゴリを纏っている。あたかも今宵の空に浮かぶ月の光をより集めて織り上げたかのような、光沢ある美しい色合いだ。一方の雪鈴といえば、当然ながら純白の薄い夜着一枚だ。良人でも恋人でもない男の前で見せる姿ではない。
コンが切なげに綺麗な眉を寄せた。
「そなたを忘れたことはなかった」
そう、まるで去年の初夏の別離にまで刻を遡ったかのようだ。その間にコンと再会して交わした上辺だけの空しい言葉の応酬、あれらがすべて存在せず、雪鈴が別離を一方的に告げたあの雨の朝からいきなり今、この瞬間へと時が飛んだような錯覚さえしてしまう。
眼前に佇む彼は、雪鈴がよく知る昔のコンだった。
雪鈴の眼に大粒の涙が溢れた。
コンが大きく両手を広げる。雪鈴をなおも細い理性の糸がその場につなぎ止めていた。
「そなたを苦しめるのは俺の本意ではない。だから、そなたが本当にそこまで俺を嫌うなら、もう今夜で止める。二度と雪鈴に近づくこともなく、そなたの心を乱すようなこともしない」
やはりと、思った。コンは今夜を区切りにするつもりだったのだ。雪鈴は彼に向かって一歩を踏み出した。最初はゆっくりと歩いていたのが、いつしか早足になり駆けていた。
コンもまた雪鈴に向かって走っていた。二人はどちらからともなく抱き合った。
コンが雪鈴を強く抱きしめた。
「まさか来てくれるとは。夢を見ているようだ」
コンが雪鈴の髪に顎を乗せ、想い人の香りを胸に吸い込む。雪鈴もまたコンが衣にたきしめた若葉の清々しい香りを心から懐かしんだ。
コンの少しくぐもった声が降ってくる。
「済まぬ、そなたを追い詰めるつもりは毛頭ないのだ。そなたが止めてくれというなら、今夜を最後の歓びとして雪鈴への想いは生涯封印すると誓おう。そなたにみっともないところばかり見せて、これ以上嫌われたくない。俺にもまだ少しは男として誇りが残っていたということだ」
雪鈴は小さく嫌々をするように首を振った。
「あなたを忘れられるなら、いっそ、その方がどれだけ楽だったでしょう」