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後宮に蝶は舞いて~Everlasting love~第二部
第10章 再び春巡りて
「コンさま」
びしょ濡れの雪鈴はうっすらと微笑みを浮かべていた。後々、コンは彼女のこのときの笑顔をどこかで見たことがあると思ったものだけれど、このときは思い出せなかった。
後になって気づいたのは、彼の父が個人的に信仰する御寺の観音像に似ていたということだった。かすかな笑みをとどめ、薄く半眼でうつむいている尊像は、あたかも下界にいる衆生を慈しみのまなざしで見下ろしているかのようでもある。