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張型と旅をする女
第4章 別れ
女が今までで一番、意地悪な顔をした。
「貴方は…欲しかったのね。これがあれば彼女は逃げなかったのではないかと、そう思ったのね」
「いや、あ」
『友達と会う』と言って仕事終わりや休日に男と会っていた彼女。
他の男と楽しげに過ごしそれを黙っていた彼女。
交際するのは初めてだと言っていたのに。
男は乱暴だから嫌いと言っていたのに。
「本当のことでしょう。だから尚更この箱の中の物が欲しくなってしまったのね。これを装着すれば愛するひとを満足させられると想ったのね」
真夏でもないのに、背中に汗が流れ下着に張り付く。
「あなたが思っていることは、真実なのかしら。あなたが産んだ猜疑心が見せた幻影なのかしら」
車掌のアナウンスが、もう10分程で品川駅に到着すると知らせた。
女は空になったお猪口を酒瓶の口に被せ手際よく風呂敷を包み直すと、シートからすっくと立ち上がった。
「箱の中は差し上げられないわ」
ニイッと笑うと
「わたくしも一生の勝負だと思ってやり遂げたのだもの。おいそれと簡単には渡せないわ」
「私」はがっくりと項垂れた。
列車の走るスピードが軋む音とともに徐々に徐々に緩やかになる。