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ビッケとビッチ
第4章 11月30日木曜日の夜…
 3

「あら、今夜はスーツなんだね」

「は、はい、今日は県庁へ出張だったんす…
 それにこれなら少しは悠里さんに釣り合うかなぁって…」
 と、そんなかわいい事を言ってきた。

「あらぁ、このボクちゃんかわいいんですねぇ」
 すると彩ちゃんがチーズオムレツを作ってカウンターに置きながらそう言ってきたのだ。

「でしょう…
 このビッケかわいいのよぉ…」

「はい、悠里さんにしては…と想ったんですけどねぇ…
 納得ですぅ…」
 彩ちゃんは意味深そうな目と笑みを浮かべながらそう囁いてきた。

 そうこの彩ちゃんは親友的な関係であり、ここ最近のわたしの男関係の事情は全て把握している間柄なのである…
 だから、咄嗟にわたしの口から漏れた
『ビッケ』という単語の意味も理解しているのだ。

「え、ビッケ?…」

 ただ、本人の和哉くん自体には理解できない単語であり、この彩ちゃんとの会話も…
 まるで大人の会話を聞いて、訳が分からない子供の様な唖然とした表情をしていた。

 いや、完全にわたしと彩ちゃんのこの妖しい雰囲気に吞まれてしまっていた感じであった…

「うん、ビッケ…
 わたしのかわいいペットのビッケよ」

「え、ぺ、ペットの?…」

「うん、かわいいからキミはこれからビッケね」

「え?…」
 わたしは彩ちゃんとの会話の中でのどさくさに紛れて、和哉くんを『ビッケ』と呼んだ。

 そして…

「いいのよ、ビッケで…
 そのうちに教えて上げるからさぁ…」
 そう、うやむやな感じで押し切っていく。

「あら、ビッケちゃんなんだ…
 うふ、かわいいわねぇ…」
 と、彩ちゃんが更に、妖しく、大人の女の艶気溢れる笑みでダメ押ししてくれた。

 さすが彩ちゃんである…

「あ、え、は、はぁ…」
 ただ和哉くん、いや、ビッケは全く分からない…的な顔を浮かべながら、そんな戸惑いの声を漏らしてきたのだが…

「うふ、馬子にも衣装ね」
 わたしはそう呟き、カウンターの下にある和哉くん、ビッケの左足の太腿を、右手で撫でた。

「あっ…」
 そのわたしの右手のタッチにビクッと小さく震え、わたしを見て固まってしまったのだ。

「うーん、でも…
 ネクタイのセンスがイマイチねぇ」

 わたしはもうスイッチが入っていた…

 そのくらいに今夜の低気圧による自律神経の疼きはヤバかったのだ…




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