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ストリート・キス
第1章 ストリート・キス
 小さな居酒屋だった。狭いカウンターとテーブル席が二つほどの10人も入ればいっぱいになってしまいそうな広さだが、客は僕たちしかいなかった。彼女と何を話したのかよく覚えていない。覚えているのは彼女のタバコを吸う姿だ。電子じゃない煙が出るタバコをバッグから取り出した彼女は、小さな口に一本くわえた。
「火をつけてくれる?」
 渡された100円ライターで火をつけてあげた。斜め横を向いて煙を吐く。なんだかちょっと気だるい感じで色っぽい。職場で見る彼女とはぜんぜん違う。かわいくて若い印象だったけれど、僕から見たら職場の同僚で先輩、ただそれだけの存在だったのに、今は一人の女性として、僕のそばで横座りになってタバコを吸っている。
「江田くんも吸う?」
 聞かれてちょっと考えてからうなずいた。新しいタバコをくれると思っていたのに、彼女が吸っている火のついたタバコを差し出され、わけもわからず受け取って口にくわえてから、いきなりそこで気がついた。
 …ああ、これって間接キスだよな。
 フイルターになすったようなかすれた赤い色があった。彼女の口紅だ。それを口にくわえ、彼女の真似て横を向き、そっと煙を吐く。
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