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【全話版】ストリート・キス
第6章 結ばれた夜
 彼女は謝らない人で「ごめんなさい」と口に出して言ったことがない。それは彼女自身だけではなくて、ろくに考えもせずに僕が「ごめんなさい」なんて軽々しく言った日には「なんで謝るの」と徹底的に追求された(加えて機嫌が悪くなる)。根拠のない発言や上べだけの謝罪は嫌い。それが彼女のポリシーなのだと僕は推測していた。ちなみに彼女の血液型はB。僕はOだ。
 彼女に言いたいことがたくさんあった。さっきのコンサートでの行動もそうだ。彼女は人妻で僕の立場は彼女の…何だろう…恋人であると思いたいけれど、とにかく目立つのはまずい。良くない。それなのに彼女はぜんぜん気にしていない…ように見える。でもその心配事を彼女に言えない。もしも僕が言ったら、そもそもの根拠である僕と彼女の秘密の関係を、彼女があっさり切ってしまいそうで怖かったのだ。そもそも僕に抱きついてきた彼女自身がくれたキスによってその根拠が始まったのだとしても。
 無国籍料理の店をあとにした僕たちは、腕を組んで歩調を合わせ、生ぬるい夜風の中をぶらぶら歩いた。
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