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【全話版】ストリート・キス
第2章 訃報の春
彼女が亡くなったと人伝てに聞いたのは、桜の開花情報がそろそろ気になり始める頃のことだった。
三月のウィーンはまだ寒いのか、それとも暖かいのだろうか?
東京で暮らす僕にとって、三月は春の気配が駆け足でやって来る季節だ。意味もなく気分が浮わついて、意味もなく期待だけが膨らんで、何だかわからないが良い事が待っているような予感がする。三月とはそんな代物だ。
彼女が…貴女が暮らしていたウィーンの街並みを想像してみる。でも写真や映像で見たモーツァルト像とかベートーヴェン像ぐらいしか浮かばない。ヨーロッパの歴史ある観光都市といえども、自分が一度も訪れたことがない場所を想像するのは難しい。
僕にとってまったく縁がないオーストリアの首都に比べて、貴女のことを思い描こうとするのは、それが十年ぶりの行為だったにもかかわらず、やってみると簡単だった。
僕を振り向いた貴女の眼差し。誘われるままに僕はその小柄な身体を抱く。
「そんな力しか出ないの」
「えっ。だって」
「もっと強く抱いて」
だって人が見てるからと言いたい僕の唇が、貴女の熱い吐息で塞がれてしまう。
三月のウィーンはまだ寒いのか、それとも暖かいのだろうか?
東京で暮らす僕にとって、三月は春の気配が駆け足でやって来る季節だ。意味もなく気分が浮わついて、意味もなく期待だけが膨らんで、何だかわからないが良い事が待っているような予感がする。三月とはそんな代物だ。
彼女が…貴女が暮らしていたウィーンの街並みを想像してみる。でも写真や映像で見たモーツァルト像とかベートーヴェン像ぐらいしか浮かばない。ヨーロッパの歴史ある観光都市といえども、自分が一度も訪れたことがない場所を想像するのは難しい。
僕にとってまったく縁がないオーストリアの首都に比べて、貴女のことを思い描こうとするのは、それが十年ぶりの行為だったにもかかわらず、やってみると簡単だった。
僕を振り向いた貴女の眼差し。誘われるままに僕はその小柄な身体を抱く。
「そんな力しか出ないの」
「えっ。だって」
「もっと強く抱いて」
だって人が見てるからと言いたい僕の唇が、貴女の熱い吐息で塞がれてしまう。