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人質交換を託された女
第10章 感情との葛藤
感情と戦う彼女の姿は可憐だった。その姿は野に咲く花のようだった。縄という風に体がふらふらと揺れ、何をしてもどうにもならない気持ちに染まり、晒された女の証に視線を落とすと、表情から感情が抜け落ちていく。

佐伯さんが自身の運命を悟った表情を見て、もう見てられない…という気持ちから、私は彼女から目を背けた。その先にペットボトルの容器が見え、それを見つめてしまう。補佐役の男が水の入った容器を手にしてしまい、私はうつ伏せの体を動かし、前に進もうと、「ゥウ…」と低い声で唸っていた。

体をうつ伏せの姿勢から、仰向けにされ、目の前の現実を瞼の重さに耐え、直視する。真っ黒なマスクに顔を覆われた男がいた。目と口元の部分に穴が開いていて、補佐役の男を間近に見る。脅威を感じない、穏やかな瞳をじっと見つめてしまう。

容器のキャップが外れ、男は水をキャップの盃に注ぎ、指先で水に触れた。そして、その指を私の唇に這わせる。スカーフの結び目で大きく開けられた唇に、水という潤いが与えられる。指先の動きに、私は「ふぅ…」と息を漏らしてしまう。
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