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人質交換を託された女
第14章 惜別の品
お手洗いの扉を開け、通路に出た。そこには行員通用口への道を阻むように、田口さんが待っていた。彼の手には縄が握られていた。彼と目を合わせ、息が苦しくなる。

彼はすぐ正面に立ち、私に近付く。すると私の肩に手を触れ、背を向けさせた。ゆっくりと私の体を後ろから押してくる。私は行き場のない壁に、両手をそっと添えた。私には11人目の人質に戻るという役目が残されていた。

耳元で彼が、「いいか…」と呟いた。
私は「はい…」と小さな声で返した。

「ァ…」とすぐに私の両腕が、右、左の順で後ろに回された。頬が通路の壁に触れる。視線の先には通用口の扉が見えた。無意識な想いに目を閉じて、シャツの繊維が素肌と擦れる音を聞いていた。肘を後ろに回され、腕をしっかりと束ねられ、捕らわれの身に相応しい型にはめ込まれる。
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