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淫夢売ります
第21章 Deep Sea:沈む海
女性の声が聞こえる。声の感じからして若いようだ。暗幕で仕切られた奥座敷に入ると、狭い店内に小さな机、その前に椅子がちょこんと置いてあり、その向こうに黒髪、黒服の女性が座っていた。服は胸のリボンまでも黒かったが、不思議と喪服チックではない。おしゃれな感じだ。そして、唇には真っ赤なルージュを引いていた。

「あら?カップルでらっしゃいますね。はじめましてユメノと申します」
座ったまま深く頭を下げる。顔を上げた拍子にこちらをチラと見たが、光の具合だろうか、その瞳が異常なまでに黒いことに驚いた。

通常、日本人の目は黒いと言われるが、もちろん真っ黒ではない。ものが黒く見えるのは、光に含まれるあらゆる波長を吸収するからだ。もちろん、人体の器官である眼球があらゆる光を吸収するわけがない。そんなことしたら網膜に像が結べない。なので、あそこまでの黒さは本来はありえないはず・・・だけど。

その黒さは、まるで夜の闇そのものだと、不思議な感じを僕に与えた。

「どうか、なさいましたか?」
ユメノがニコっと笑う。いや、ニコっというか、恐ろしいような笑みに見えた。まるで目が黒い三日月のようになっていた。心の中がゾクリとする。
「真人!」
佳奈の声で我に返った。もう一度見ると、ユメノの顔は普通だった。慌てて、「いいえ、別に」と目をそらしたが、その様子をどう勘違いしたのか、佳奈が肘で脇腹をつっ突いてきた。

「今日は鑑定ですか?」
鑑定とは、占いのことだという。佳奈は迷わず「はい」と返事をした。夢の促され、僕は暗幕の外で待つことにした。特に聞き耳を立てることはなかったが、暗幕の向こうの声は殆ど聞こえなかった。結構、この暗幕、遮音性能が高いらしい。

20分ほどして満足そうな顔をした佳奈が出てきた。
「面白かったよ。真人もやってみる?」
ちょっと興味があった、というより、あのユメノの目がどうしても気になった。

『魔女みたいな女がいる』
『夢を売ってくれる』
『モルフェ』

この女自体がもしかしたら、怪異なのではないか?
確かめるため、というほど高尚な理由ではなく、単にもう一度見てみたいという気持ちで、暗幕をくぐる。
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