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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
刻はうつろってゆく。
様々な人の想いを呑み込んで、月日は流れていった。
澄んだ晩秋の空気に色づいた山々がくっきりと立ち上がる季節になった。
いつしか公子が宇治の別邸で暮らすようになって八月(やつき)が流れていた。
三月(みつき)前には黄色い愛らしい花を咲かせていた女郎花に代わり、今は色とりどりの小菊やがまずみが庭を彩っている。がまずみの枝に、紅瑪瑙のような小さな実が晩秋の陽を受けて、つややかに輝いている。