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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第1章 《序章》
少女はとうとう我慢ならずに言い返す。
「主上(うえ)のご学問のお師匠は文章博士の紀伊(きの)公明(きみあき)さまにございますね。紀伊公明さまといえば、当代でも並ぶ者がおらぬというほどの優れたお方。そのような先生にご指導頂きながら、主上は毎日、何をお学びになられておわされるのやら」
紀伊公明―、あの〝土佐日記〟を著した紀貫之の流れを汲む名門紀伊家の当主にして文章博士を務める当代きっての博識家である。