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ネコの運ぶ夢
第9章 お仕事ネコ
次の駅までの間、ずーっとその調子で助けを求め続けたので、たまらない。停車したタイミングでなんとか人波をかき分け、音子の近くまで寄っていき保護する。そうしたら、今度はガシッと抱きついてくる。「こ、こら・・・」と引き離そうとするが、音子は無言で首をふるふる振って離そうとしない。あまり動くわけにもいかず、結局、電車の中での『羞恥抱きつきの刑』に耐える羽目になってしまった。先程の騒ぎをみんな見聞きしている。周囲の人がクスクスと笑っている気がしてならない。いや、実際笑っていた。

30分ほど電車に揺られ、やっと会社最寄り駅にたどり着いた。

ああ・・・どっと疲れた・・・。
朝なのに、一日の体力の八割方消費した気分だ。

「ここが俺の仕事場だ」
目の前のビルを音子に示す。音子は「ほえー」とビルを見上げて感嘆の声を上げる。

「市ノ瀬さんの会社は大きいですねぇ。ここの何階ですか?」
「9階だ」
「じゃあ、万が一のことがあったら、ここで市ノ瀬さんを呼ぶことにします。
 『9階の市ノ瀬直行さん』って言えば分かりますか?」
いや、マンションの呼び出しじゃないんだから、と思うが、面倒なので、そのままにすることにした。

感心している音子に今後の予定を手短に伝える。先にも言ったように、今日は外での仕事だ。一般市民向けの講演会を行うための準備をするのと、一応、開会の挨拶も俺がやる。その会場と時間を音子に教える。

「いいか、何かあったら、俺に電話するんだぞ」
「はい!」
音子はポーチに入っている買ったばかりのスマホをぽんと叩く。これも音子のお気に入りだ。
なんでも「いつでも市ノ瀬さんと繋がれます。最高です!」だそうだ。そんなことをいい笑顔で言われたら鼻血出そうになる。やめてほしい。

準備のために俺が会社ビルから外に出るまでには、まだ2時間程度ある。それまで、音子には近くの図書館にでも行っていてもらうことにした。
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