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ネコの運ぶ夢
第13章 家につくネコ
☆☆☆
「課長、お疲れ様です」
中条家の入り口からほど近い喫茶店で、待っていた朝霞くんと合流した。本当は中条の家には二人で行くつもりだったが、土壇場で自分一人で行くことにさせてもらった。朝霞くんには悪いことをした。

「課長、どうしました?顔色、悪いですよ?」
まあ、そうだろう。とてつもないストレスだった。普段、喧嘩なんかし慣れない俺があんな妙な駆け引きをしたんだ。中条家を出た瞬間から脚がガクガク震えてまともに歩けなかった。

「課長・・・なんかひとりで抱え込んでません?」
朝霞くんは優しいな。大丈夫だよ。心配ない。

「ああ、なんとか講師は確保したよ。中条京子だ。後で連絡を頼む。」
「さすがですね。ご苦労さま」

今日は帰って早く寝よう。疲れた。

「ああ」

俺はそっと中条の家の方を見た。もう、届かない。
一目会いたいという望みは叶ったが、連れ戻すことは出来なかった。

音子・・・

「課長?」
伝票を持って朝霞くんが立ち上がったまま不審な顔でこっちを見ている。
「あ、や、なんでもない。行こうか」

俺たちが出ると、軽やかな音をてて、喫茶店の扉が閉まる。
その音とともに、俺のありったけの勇気を振り絞ったささやかな冒険は、そっと幕を下ろした。
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