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トライ アゲイン
第1章 序章
居酒屋の個室に差し向かいで盃を酌み交わした。
「私…今の仕事、向いていないと思うんです…」
「ああ、わかっているよ」
意中の小向さんだからこそ
「そんなことないよ、僕がフォローしてやるからもう少し頑張ってみなよ」なんて甘いセリフを期待したのだけれど、彼の口から出た言葉は
「早く会社を辞めて他の仕事を探すのもいいかもしれないね」
まるで安祐美の事なんて眼中にないとばかりに
彼は日本酒をぐいぐい呑んだ。
「だいたいさ、もともと文系の君がどうしてわが社を選んだんだい?
入社できればどこでもいいと思っていたんだろ?」
ズバリその通りだった。
文系の安祐美は出版社に勤務するのが夢だった。
だが、三流大学出の安祐美なんて
どこの出版社に面接に行っても箸にも棒にもかからなかった。
三流大学のくせに、学費だけはべらぼうに高額だったので、親の仕送りだけではどうすることも出来ず、手っ取り早くお金を稼ぐために安祐美は仕方なくパパ活を始めた。
ヤリ目ばかりの相手に、やはりこんなパパ活なんて辞めようと思って最後の一人のお相手をしたのが近藤祐介というロマンスグレーの紳士でした。
彼は他の男とは違って
安祐美の体が目当てではなくて
実の父親のように安祐美を大切にしてくれた。
いつも食事とか奢ってくれて
おこづかいまでちゃんと手渡してくれる祐介に感謝こそすれ、何かお返しをしなければと思っていた。