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愛しのバニー~Bad Romance~
第1章 うさぎ
目の前にある
毛穴ひとつない滑らかな白い頬に
舌を這わせたのは、つい二日前のことだ。

うさぎは
目尻をひきつらせて視線を喜田の顔にとどめた後、
さっと視線を下ろして深々と頭を下げた。



───素性が、バレた



記念品授与が終わり、
壇上に立った喜田は準備しておいた激励の言葉を粛々とのべたが、
じっさい頭の中は真っ白だった。


狼狽している自分がいた。

なのに、うさぎの紺色の固い生地のスーツの下に隠された
大きな乳房と桃色の乳首を思い出し、
場所もわきまえずに演壇の下で勃起した。


喜田のうなじに汗が流れるのを見て、
異変を感じた司会者は、
早々に表敬訪問を切り上げた。



「教育長、お体のぐあいでも」

進行役を終えた事務局担当者が、
心配顔で追ってくる。

「いや、大丈夫だよ。ちょっと失礼」

喜田は言って、
記者席の取材陣ににこやかに会釈すると、
教員より先に来賓室を出た。



トイレを済ませ、
手洗い場の水で顔を洗った。

鏡を見つめ、胸の内で呟く。

───俺は、なんてことを

知らないうちに、俺は部下である女性と
ただならぬ関係になっていた。

しかも相手の女性は、
教職員としてルールを破り、
副業をしている。

しかもよりによって副業の内容が性風俗ときている。

露呈すれば彼女の立場はおろか、
自分の立場さえも危うい。

教育者であるひとかどの人物が
性風俗に通っていると世間に知れたら、
非難の目を浴びるどころか
辞職もまぬかれない。

喜田はアイロンのきいたハンカチで顔を拭うと
気持ちの整理がつかぬまま化粧室を出た。

そこに、先ほど羽生月子と呼ばれた、
うさぎが一人で立っていた。

羽生月子が本当の名前だと言うのに、
喜田の目から見ればやはり
彼女は「うさぎ」でしかなかった。

「あの」

うさぎは言うと、先ほどと同様に深く頭を下げた。

喜田はわざと
胸ポケットにしまったボールペンを床に落とした。

咄嗟に拾おうとしゃがみかけたうさぎと同時に屈み、
ペンを拾いながら、
うさぎの耳元に口を寄せて耳打ちした。
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