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愛しのバニー~Bad Romance~
第1章 うさぎ
カチャカチャとベルトの金具を解きながら、
うさぎは唇を噛んだ。
悲しかった。
喜田と結ばれる日を夢に見ていた。
いつか互いの気持ちが通じ合い、
あのピーチのかび臭い密室から
喜田が手を引いて連れ出してくれる日を待っていた。
そして客としてでなく、
最愛の男として、
自分を全身で愛してくれるのを待ち望んでいた。
それなのに今、その夢にまで見た瞬間を、
卑劣な交換条件として自分から差し出したのだ。
───こんな形で出会わなかったならば
うさぎは思った。
後悔が胸を吐き、
嗚咽が零れるのをおさえた。
ファッションヘルスのちいさな部屋で
言葉もなく積み重ねていた二人の静謐な絆が、
叩き壊される音が聞こえた気がした。
無理やり微笑んでみせたが、
視界に映る喜田の顔が涙で揺れた。
───口止め料を、身体で払うというわけか。
喜田は、
紅潮したうさぎの頬を見下ろしながら思った。
糊のきいた純白のシーツの上に、
うさぎの髪が波打って広がっている。
「副業の禁止」。
教員としての違反が露呈した今、
うさぎはクビをまぬかれるために体を売るという。
───うさぎにとって自身の体は、利を得るための道具にすぎないのだ。
喜田は悲しかった。
自分たちが共有した時間は、
出会いは不純でありこそすれ、
幸せで温かなものだった。
決して
皮膚と皮膚の摩擦から得られる快感だけを求める関係ではない、
そう喜田は思い込んでいた。
が、それは喜田の一方的な勘違いだったのだ。