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天狐あやかし秘譚
第102章 一気呵成(いっきかせい)
そして、凛として自分の数倍もある山の主を見上げて言った。

「この地狐・佐那姫・・・あのようなものに、遅れなど取りませぬ!!」

ぐおぉおおおおおおおぉおおお!!!

黒き山の主が、天を仰いで咆哮を上げる。その巨大な右腕を大きく上げ、私たち全員を叩き潰さんと振り下ろしてきた。

佐那は右足と右手を引き、朗々と呪言を唱えていく。

「ちはやぶる 神代に成りし なゐを振るわせ
 神名火の 清き魂もて・・・」

キュウウウウウウ・・・
大気が呪言に呼応し、大地が震える。
佐那の全身が漲る妖力に覆われ、白く清らかな光に包まれていく。
全身の気が最高潮に達した時、最後の呪言が彼女の口から紡がれた。

「祓え穢れを!!」

その言葉とともに彼女の身体を包み込んだ光が爆発的に膨らんだ。ダン!と踏み込んだ衝撃で地震が起きたかのように大地が震えた。その衝撃の反作用により、光をまとった佐那は一発の光弾のごとくまっすぐに巨大な獣に突っ込んでいった。

佐那!!

あ!と思ったときには、突き出した拳が黒い腕を突き破り、そのまま流星の如き勢いで巨大な獣の眉間を一息に貫いていく。

「が・・・あ・・・・」

それが、獣があげた、最後の声だった。

一瞬の静寂の後、黒い山の主はチリとなって大気中に溶けていき、そのまま消えていった。それとともに、そいつが作り上げていた異界も霧散したようで、上空の不気味な赤い月は消え失せ、周囲の空間に感じていた奇妙な重さもなくなった。

今度こそ・・・終わった・・・の?

10メートルほど先に佐那が立っていた。私がそこに駆け寄ると、佐那の足元に、大型犬くらいの大きさの獣が倒れていた。身体のどこも動いていない。どうやら、息絶えているようだ。

「狼みたいですね・・・先程の妖魅は、年を経た狼の変化(へんげ)だったようです・・・」
佐那姫が見つめる先で、その狼の亡骸もまた、しゅるしゅると闇の中に溶けていった。

こうして、私と佐那姫の予期せぬ退魔譚は、私たちの勝利で幕を下ろした。
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