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天狐あやかし秘譚
第31章 情意投合(じょういとうごう)
その様子を見て、瀬良は目を細めた。
もし、自分が子どもを産んだら・・・。こんなあったかい情景を毎日見られるのだろうか?

その父親が・・・と考え始め、浮かんできた顔に、慌てて頭を振ってイメージを振り払う。

いけない、いけない・・・。

それが叶わぬ夢なのは、重々承知しているはずだ。瀬良の家に生まれたからには、仕方のないことだ。

でも、だったらせめて、今のこのときだけでも、母親気分を味わいたい。

「ねえ、瀬良お姉ちゃん。ままはいつ帰ってくるの?」
清香がほっぺたにいくつもハンバーグのかけらをつけながら聞いてきた。瀬良はウェットテッシュでほっぺたを拭いてやりながら答える。
「うん・・・お昼に連絡あったよ。明日、帰ってくるよ」
言うと、ぱあっと彼女の顔が明るくなった。やっぱり、綾音さんの方が良いのね?
それは、まあ、当たり前なのだけど・・・。少しがっかりでもあった。

嫉妬してるのかなあ。

浦原綾音・・・。
天真爛漫と言うか、屈託がない、可愛らしい女の子。
運命にがんじがらめになって、屈託しきっている自分とは大違いだ。
でも、そんなことを顔には出せない。ましてや、今は仕事中だ。

「早く、帰ってくるといいね」

また、心にもないことを言ってしまう、そんな自分を、私はやっぱりちょっと嫌いだった。
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