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天狐あやかし秘譚
第32章 【第8話 市民の木】一意専心(いちいせんしん)
☆☆☆
ぷわあああん。
向かいのホームを警笛を鳴らしながらのぞみ号が出発する。

「綾音さん・・・綾音さん!!」
宝生前に肩を揺すられ、ようやく私はぼんやりとした意識の焦点を彼に合わせる。次に、思う。あれ?ここはどこ?

「全く・・・ぼんやりするのも大概にしてください。さっきは人波にさらわれそうになるし、その前は在来線の反対側に乗ろうとするし・・・。一体何がどうした・・・って、聞くまでもないか・・・。」

宝生前が、はあ、とため息をつく。
彼が呆れるのも無理ないほどに、私の様子はおかしかった。理由は推して知るべしである。

昨晩は、ほとんど寝ていない。そして、一晩中、ダリと・・・。

き・・・気持ちよかった・・・。

思い出すだけで、またアソコがキュンとしてしまう。初体験にも関わらず、一晩中ダリに愛されまくった私は、すっかり彼との交わり・・・えっと、セックスの虜になってしまっていた。

こ・・・困った・・・。

自分がこうもあっさり、心を、そして、身体をもメロメロにされてしまうなんて・・・。予想はしてはいたが、実際、なってみると、なんというか・・・恥ずかしいやら、なにやら・・・。

今も私は人間モードのダリの腕にしがみつくようにしている。彼の体に触れているだけで、気持ちがいい。

本当に・・・困った・・・。

「昨晩はお楽しみだったのかもしれませんが、あんまり人前でイチャイチャしないでくださいね。ほら、もう新幹線が来ます。草介さんはここまでですから、ちゃんとサヨナラしましょう。」

そう言われて、やっと自分がいる場所に思いが至る。ここはJR岡山駅の新幹線ホーム。私達は今日、東京に帰ることになっている。その私達を草介さんが見送りに来ていた。
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