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天狐あやかし秘譚
第37章 【第10話 疱瘡神】病入膏肓(びょうにゅうこうこう)
「土御門様?」

その美貌に見惚れて立ち止まってしまっていたらしい。先導する女中から大分引き離されてしまった。瀬良に促され、慌てて後を追う。

女中さんによると、この屋敷に家主の名越鉄研とその妻の真衣(まい)、娘である真白(ましろ)が住んでいるという。

「こんな大きな家に三人だけ?」

土御門が問うと、女中はまあ、と受け流しつつ、
「数年前までは祖父母も健在でしたし、真白の兄の颯馬さんもいたんですけどね」
と教えてくれた。祖父は3年前、祖母は去年亡くなられたそうだ。長男の颯馬は東京に働きに出ているということだし、真白はまだ15歳になったばかりで婿を取っていないと言っていた。
「今が一番この家に住んでる人、少ないかもしれませんね。あとは今は女中が3人かしら。」
ちょっと前まで4人いたけど、ひとり病欠だそうだ。

とすると、さっきのべっぴんさんが『真白ちゃん』いうことか?

そこまで考えて、ふと引っかかりを覚えた。・・・んん・・・なんやろな?考えを巡らせようとするが、そうこうしているうちに、底冷えのする板敷きの廊下を通り、広い和室にたどり着いてしまった。

日本家屋らしく、中央に平机がおかれ、人数分の座布団が敷いてあった。周囲を見回すと、歴代の家主の写真だろうか、ぐるりと飾ってある部屋だった。

「なんか、どれも顔、似てないですね・・・」

瀬良が呟く。土御門も、それについては同意していた。確かに・・・。一番新しいのがこの間亡くなった祖父だろう。ひょろっとして学者肌っぽい雰囲気の男だった。その前の写真は普通考えればその父なのだろうが、こちらはでっぷりとして目鼻が小さく、頭髪もかなり不自由な感じである。雰囲気が全く違う。ほぼ他人だ。

「お待たせしました。村長の名越です。よろしくお願いします。」

現れたのは、やはり写真の『祖父』とは全く似ていない初老の男だった。年の頃は50前半と言ったところか。ガッシリとして、壮健そうな人間だった。祖父とも曾祖父とも顔立ちが違う。

意気軒昂なのは、この家が単なる村長業だけではなく、名越薬品という会社経営でもかなりの収益を得ているからだろう。言ってみれば、名越鉄研はちょっとした会社の社長なのだ。土御門が差し出された手を取ると、ぎゅっと握られる。肉厚で、大分温かい手だった。やり手な感じがするなあと、直感的に思った。
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