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恋人岬には噂があった
第2章 第2話

今日は出会いと失恋、いろいろなことがあった、と野上は湯船にもたれ、その縁に両腕を乗せて目を閉じた──。
今夜帰宅してダイニングに入ったときのことを振り返ると、窓辺には新しい花が生けてあった。部屋の雰囲気がずいぶん違うと感じたことである。
由香が花を飾るのは、アパートで暮らしていた幼いころから続いている。幼稚園や小学生のころは近所の草花だった。高校の半ばになると、由香は休日や長期の休みを利用して花屋でアルバイトを始めた。それは大学に通う今でも続いている。窓辺の花は、由香が貰ってきた花だ。
(二)
八年前である。野上英二は、由香が小学六年生のときに離婚している。
離婚するまでの野上は、由香と妻の幸江とともにアパートに暮らしていた。当時の仕事は近郊に荷物を運ぶ、大型トラックのドライバーである。人並みの給料を毎月手にし、家族を養うために働いた。アパートに戻れば温かな家庭がある。野上は幸せだった。
だが、幸せも長くは続かなかった。
由香が小学二年生のとき、野上は家族で暮らす家を買うため、妻と由香に相談して転職した。新たな仕事はトレーラーの長距離ドライバーである。
アパートにあまり戻れない日々が続く野上だった。しかし給料は跳ね上がった。先輩ドライバーからは、この会社で四年頑張れば家が買えると言われたことがある。当時の野上は、目的に確実に近づけると思ったことだった。
運行費からは自身の食事代として一日三千円の支給があった。遠くの土地に行ったときなど、二人の嬉しそうな顔が見たくて、食費を少しづつ貯めた金から土産を買うこともあった。
小学校が長期の休みに入ると、一、二泊の運行のときには、由香を隣に乗せて走ったことがある。由香は楽しそうだった。給与は銀行振り込みだが、そのときに給与明細を見せると、由香は目を丸くしてお父さんすごいよ、とにこにこしていた顔が浮かぶ。由香も、野上と同じ未来を描いていたように思う。
だが、夢が崩れた。
野上は以前から、由香が修学旅行を心待ちにしているのは、自分のことのように知っていた。
今夜帰宅してダイニングに入ったときのことを振り返ると、窓辺には新しい花が生けてあった。部屋の雰囲気がずいぶん違うと感じたことである。
由香が花を飾るのは、アパートで暮らしていた幼いころから続いている。幼稚園や小学生のころは近所の草花だった。高校の半ばになると、由香は休日や長期の休みを利用して花屋でアルバイトを始めた。それは大学に通う今でも続いている。窓辺の花は、由香が貰ってきた花だ。
(二)
八年前である。野上英二は、由香が小学六年生のときに離婚している。
離婚するまでの野上は、由香と妻の幸江とともにアパートに暮らしていた。当時の仕事は近郊に荷物を運ぶ、大型トラックのドライバーである。人並みの給料を毎月手にし、家族を養うために働いた。アパートに戻れば温かな家庭がある。野上は幸せだった。
だが、幸せも長くは続かなかった。
由香が小学二年生のとき、野上は家族で暮らす家を買うため、妻と由香に相談して転職した。新たな仕事はトレーラーの長距離ドライバーである。
アパートにあまり戻れない日々が続く野上だった。しかし給料は跳ね上がった。先輩ドライバーからは、この会社で四年頑張れば家が買えると言われたことがある。当時の野上は、目的に確実に近づけると思ったことだった。
運行費からは自身の食事代として一日三千円の支給があった。遠くの土地に行ったときなど、二人の嬉しそうな顔が見たくて、食費を少しづつ貯めた金から土産を買うこともあった。
小学校が長期の休みに入ると、一、二泊の運行のときには、由香を隣に乗せて走ったことがある。由香は楽しそうだった。給与は銀行振り込みだが、そのときに給与明細を見せると、由香は目を丸くしてお父さんすごいよ、とにこにこしていた顔が浮かぶ。由香も、野上と同じ未来を描いていたように思う。
だが、夢が崩れた。
野上は以前から、由香が修学旅行を心待ちにしているのは、自分のことのように知っていた。

