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雨が好き
第11章 雨宿り

蒼人さんは『みなと町』で私と話すこともある。
そんなときに話すのは、本当に他愛のないこと。
森で見た若木の話し。
この間、仕事中に見た鹿のこと。
鹿を見たの?すごいですね、と言ったら、
イノシシに追いかけられたこともある、
と言っていた。
「油断するとイノシシに轢かれそうになるから怖いんだよ!」と笑っていた。
私がお仕事をしていると、蒼人さんは本を読んでいることが多かった。
しとしとと雨が降るガラス窓の向こう。
静かな店内で、彼が革製のカバーのかかった文庫本を読んでいる。
そんなときは、『みなと町』が全部水の中に沈んだみたいになる。
とても優しい時間。
でも、そんな時間も、彼が腕時計を見ると終わってしまう。それは彼がお仕事に戻ろうとしている合図だった。
代金を払って、私に少しだけ手を振って、『みなと町』から出ていってしまう。
雨が止むまでいればいいのに。
そして、ずっと、雨が降り続けばいいのに、と無茶なことを思ってしまう。
彼が来るようになった。
だから、私は以前よりももっと、雨が好きになっていた。
そんなときに話すのは、本当に他愛のないこと。
森で見た若木の話し。
この間、仕事中に見た鹿のこと。
鹿を見たの?すごいですね、と言ったら、
イノシシに追いかけられたこともある、
と言っていた。
「油断するとイノシシに轢かれそうになるから怖いんだよ!」と笑っていた。
私がお仕事をしていると、蒼人さんは本を読んでいることが多かった。
しとしとと雨が降るガラス窓の向こう。
静かな店内で、彼が革製のカバーのかかった文庫本を読んでいる。
そんなときは、『みなと町』が全部水の中に沈んだみたいになる。
とても優しい時間。
でも、そんな時間も、彼が腕時計を見ると終わってしまう。それは彼がお仕事に戻ろうとしている合図だった。
代金を払って、私に少しだけ手を振って、『みなと町』から出ていってしまう。
雨が止むまでいればいいのに。
そして、ずっと、雨が降り続けばいいのに、と無茶なことを思ってしまう。
彼が来るようになった。
だから、私は以前よりももっと、雨が好きになっていた。

