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大きなクリの木の下で
第15章 結ばれる夜

夜が更けてゆく。
定期的に病室の廊下から、バタパタという足音が聞こえてくる。
おそらくナースが病室の巡回に行くのだろう。
だが、この個室の病室には誰も見回りに来ない。
そう、竹本の事は計らずしも泊まり込む事になった静香が任されているのだから当然といえば当然であった。
廊下で足音がする度に静香はソファで寝返りを打つ。
竹本伸和が勤め先の出版社の御曹司だと知ってしまった今、
妙に緊張してしまい、彼の眠っているベッドと自分が横になっているソファーの間には、目に見えないベールがあるような気がした。
「眠れないんだろ?」
眠っているとばかりに思っていた竹本が声をかけてきたのでビクッとしてしまった。
「起きてらっしゃったんですか?」
「よせよ、妙によそよそしい話し方をしないでくれよ」
「だって…あなたは社主の大事な一人息子なんですもの」
「認知されているとはいえ、親父は親父、僕は僕だよ」
「そう言われましても…」
「だからぁ!そのしゃべり方はやめろよ。
そうだ、どうせ眠れないんだったらシャワーの介助をしてくれよ」
「わかりました」
確か、病棟の突き当たりに患者用のシャワールームがあったと記憶しているので、静香はソファーから起き出して病室の片隅に置いてある車椅子に手をかけた。
「そんなものはいらないさ
トイレの隣にドアがあるだろ?そこがシャワールームなんだよ」
「えっ?この個室ってシャワーまであるんですか?」
竹本自身も、ついこの間までシャワールームがあることさえ知らなかった。
ギプスが外されて歩行器を使ってなんとか歩けるようになってから、日中は暇で仕方なかった彼は部屋中を調べ回っていた。

