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蜜会…春の揺れ
第1章 春の揺れ
 3

「あ、明日、朝イチで、病院に行きますね…」

「うん……頼む…」

「はい…」
 わたしはうつむき、応える。

「明日…早いんだ………」

「何時ですか?」

「五時半くらい…」

「はい…」

 夫はそう言って、先に寝室へと歩いていく。

 わたしはその後ろ姿を見送り…
 
 ふと、左手を上げ、指先を見る。

「………ぅぅ……」

 ゆっくりと緊張を緩めていく…

『ま、またな…』
 すると、脳裏に、さっきの颯太の優しい目が浮かび…
 声が聞こえてきた。

『待ってるから……』

 もしかしたら…

 今夜が…

 ここで終われるはずだったのに…

 だけどわたしは、あのLINEを見て、揺らいでしまった…………

 もう、未練なんて…
 とっくに切れている筈なのに…
 わたしは無意識に、左手の指に触れていた。

「あ……しなくちゃ…」

 そしてわたしは、バスルームへと向かい…
 鏡の自分を見つめ…
 化粧ポーチにしまってある指輪をはめる。

 その鏡に映る…
 ううん、鏡の向こうから、わたしを見つめてくるその目には…
 偽りの色が映っていた。

 嘘つきの目…
 
 裏切りの目…

 揺らぐ目…

「ふうぅ…」

 老けたオンナの、惚けた顔が…
 こちらを、見返していた。

「はぁぁ……」

 ため息が、止まらない。

「……………」

 そして、シャワーを浴びようと、ワンピースを脱ぎ…
 腰の紐に目を向ける。
 
『…そうか、そのつもりだったんだなぁ…』
 奥が昂ぶり、彼の囁きが蘇ってくる。

 違う…

『じゃ、なんで、昔と同じ…』

 いや、違わない…

 わたしは…

 わたしは………


 ガチャ――――

 その時…

 浴室ドアの音が、大きく響き…

「あっ」

 振り向く間もなく、夫が入ってきた。

 
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