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蜜会…春の揺れ
第1章 春の揺れ
 8

「………もしも……し……………」

 わたしは、バスを飛び降り…
 震え続けていたスマホに出る。

「み、美春……だよな………」

 まだ、わたしたちは電話番号の交換さえしていなかったから…

「う、うん……」

「あ、おい、大丈夫なのか…」

 そしてわたしは、涙声だから…

「今、どこにいるんだ?」

 そしてわたしは、大通りのバス停の雑踏の騒めきに埋もれているから…

「え、あ……」

 どこにいるのか…

 どこで降りたのかは、分からない。

 ただ…

「ねえ、会いたいのっ」

 颯太の匂いに包まれ…

 抱かれ…

 消したい―――

「あ、う、うん、オレも…逢いたいけど……」

 けど…

「夕方じゃないと………」

「あ……」

 ふと、時計を見ると…
 まだ、正午前。

「ぁ……ぅ、うん、ごめん、そうだよね……」

「あ、うん…仕事…急ぐから……」

「あ………うん…待ってる……………」

 そう…
 わたしは、まだ、颯太の何も知らない。

 ううん、まだ、お互いに…

「ご、ごめん……なさい……」

「あ、いや、仕事終わったら、すぐに電話するから……」

「うん、待って……る」
 そして、電話を切った。


「………ふぅぅ……」

 わたしは、ふと、周りを見渡す…

「……………」

 ここは、わたしの知らない街…
 
 すれ違う、知らない人々。

 このまま…

 できれば、このまま、どこかに消えてしまえるなら…

 いや、せめて、あの2人の前から―――



 ブー、ブー、ブー…

 再び、スマホが震える。

「あ…」

 それは…

 夫からの着信。
 



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