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お題小説第1弾「マヨヒガ」
第1章 高人の話
☆☆☆
小学校5年生の夏、父が仕事で出張し、母が病気のために手術をすることになったため、ぼくは岩手にあるおばあちゃんの家に2週間ほど預けられることになった。

おばあちゃんの家に行くのは初めてではないけれども、都会で暮らしていたぼくにとって、山間の小さな村にある古びた平屋の日本家屋にひとりで放り込まれるのは、あまり心地の良い体験ではなかった。

「ほんにすまんなあ、こんな田舎でぇ。
 高人にはつまらんべ?」

祖母は、にこにことぼくに接してくれたが、時折東北訛りがひどくて理解できないところもあった。早く母や父のもとに帰りたいと思っていたことを覚えている。

それでも、薄暗い日本家屋の暮らしにも、周囲に森と小川と畑しかない田舎の土地にも、次第、次第に慣れてきた。3〜4日過ぎる頃には、周囲を探検してみようと思うくらいには元気が出てきた。

よく見ると、家の壁際には都会では滅多にお目にかかれないアリジゴクの巣があったり、夏の光を返してキラキラと輝く小川には魚やカエルが泳ぐ姿が見えたりした。そんな物を見つけては、子供心にわくわくとした冒険心をくすぐられていた。

おばあちゃんの家の裏には大きな山が広がっていた。
当時は熊が出るとかそういう話も聞かなかったし、そもそも都会の子どもだったぼくにとって、山が危険だという意識そのものが欠落していた。

やることもなかったぼくが、探検家気分で山に分け入っていくのにさほど時間はかからなかった。

山は明るかったし、下草が踏み固められて道みたいになっていた。木陰は程よく涼しくて、草木のいい匂いがする。適度に崖みたいなところを登ったり降りたりするのも楽しかった。

山に入るようになって3日目くらいだったと思う。
今日はいつもと違うところに行ってやろうと心に決めており、普段より山奥に進んでいたぼくの耳に、不思議な音が聞こえてきた。

リン…
 リン…

なんだろう。

蝉の鳴き声、鳥のさえずり、風で木々がざわめく音…それ以外に微かに聞こえる音がする。
耳を更に澄ませてみる。

リン…
 チリン…

それは風鈴の音のようだった。

こんな山の中に人が住んでいるのだろうか?
子供心にこれは大発見だ、と思ったぼくは、
その風鈴の音を頼りに道を進み始めた。
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