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お題小説第3弾「オトナの週末」
第1章 オトナの週末
☆☆☆
「なーにしてんのよ!」

とうとう私は我慢できずに声をかけた。

そう、夫の行く先は浮気相手のマンションでもなければ、
郊外のラブホテルでもなかった。

山間の小さな湖のほとりだったのだ。

ちょっと離れたところから見ていると、
手際よくテントを組み立てて、
缶詰料理を作っていた。

いい匂いが私の佇んでいる木陰にまで漂ってくる。

静かなソロキャンプ

夫が毎週していたのはこれだったのだ。

「み…路子…っ!」

ものすごくびっくりしたようだ。
正哉が目を丸くして私の方を見ていた。

「路子、じゃないわよ!
 何ひとりで美味しそうなもの食べてるのよ」

言ってやった。
こちとら心配すぎて、今日なんかろくにご飯を食べていない。
そこにこの匂いだ。
さっきからお腹が鳴りそうで仕方がない。

「あ、いや…これはその…」

どう言い訳をしたものか悩んでいる様子だ。

まったく!

私は彼が座っている椅子の隣の地べたに黙って腰を下ろそうとした。

ここ、私の席、なんだからね!

そんな私を夫が慌てて止める。
「ちょっと待て!
 い、椅子、もう一個あるから」

ガチャガチャと組み立てられたキャンプ用チェアにちょんと座って、
『で?』と彼を横目で睨みつけた。

「…あ、いや…すまん」

私の言いたいことがわかったのか、正哉がポツリと謝る。

実は、この時点で私はとうの昔に許してはいるのだが、
なんとなく引っ込みがつかなくなっていた。

わざとプッと頬を膨らませてみせたりして…。

ああ、こんな顔、娘には到底見せることなんてできない。
笑われてしまうだろう、きっと。

それにしても…
私はぐるりとテントを見回した。
まあ、たしかにこれがあればできんことはないけど…。

「呆れた…先週、雨の日もここに?」
「あ、ああ…」

今日はそらジローによると夜まで快晴とのことだ。
でも雨だった先週は、テントを張るだけでも大変だろうに…。

それから、夫は聞いてもいないのに、こうしてソロキャンプをしている理由を話してくれた。

立場が上がり、慣れない顧客対応や上司の相手で疲れることが多くなったそうだ。
家では子どもたちもすっかり親離れをして、早く帰る必要もない。
新しい趣味を見つけよう、そう考えた…らしい。
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