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如月茜(きさらぎ あかね)
第2章 シーン2 家長宣言と迷える子羊達
「辛い思いをさせてしまい、心苦しい限りです」
低く落ち着いた茜の声が、波立つ室内の空気をスッと鎮めていく。

「ですが、木村さん。手紙にもあった通り、私はあなたたちを見捨てるつもりはありません。この借金も、そしてあなたたちのこれからの生活も……すべて、俺に預けてもらえないでしょうか?」
静まり返った古びた居間に、茜のまっすぐな言葉が響いた。
恵麻は涙に濡れた瞳を上げ、目の前にいるスーツ姿の青年をぼんやりと見上げる。

突然現れた謎の男の申し出に、2人は戸惑いと、ほんのわずかな救いの光が交錯する――。

「すべて、わたしに預けてもらえないでしょうか?」
茜の言葉は、あまりにも唐突で、そしてあまりにも救いの大きすぎるものだった。
恵麻は潤んだ目をしばたたかせ、目の前に座る青年を見上げる。


冷徹な声を上げたのは、娘美咲だった。
「……そんなの、どこの誰だかも知らない方に…初めて会ったばかり。」

母親の肩に手を置き、茜を鋭く睨みつけるしかなかった。
中学1年生になった彼女には、世間の厳しさや大人の裏表を、この若さですでに敏感に察知していた。

「いきなり現れて、パパの手紙を出して……すべてを預けてくれって、何か裏があるみたいで… 私たちから何を奪う気とか?……」
「美咲、やめなさい!……」

母恵麻が慌てて娘を制止するが、美咲の震える瞳には、父親に裏切られた絶望と、これ以上母親を傷つけられたくないという強い警戒心が入り混じっていた。

しかし、茜は不快感を抱くどころか、むしろ感心したように小さくうなずき、ゆっくりと視線を美咲に向けた。

「もっともだね、美咲ちゃん。見ず知らずの男が突然やってきて、そんな都合の良いことを言っても、信じられないし、受け入れられないのは当然だ」

茜は穏やかな口調のまま、スーツの胸元から一枚のメモを取り出し、畳の上に丁寧置いた。

そのメモには、旦那裕二から茜に2人を託す、言葉が書き残されていた。

「…だが…、君たちをこのままにしておけば、明日の朝には別の人間がもっと荒々しくドアを叩くだろう。」

「あの男たちは、君たちがどこに逃げようと容赦なく追いかけてくる」
その静かな事実の提示に、恵麻の背筋が凍りついた。






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