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父に刻印された身体
第5章 痛みが理性を狂わせる夜
 中でも、困難を極めたのはブラジャーの装着だった。
背中でホックを留める繊細なレースのブラなんて論外で、指先すら届かない。仕方なく胸を締め付けない伸縮性のあるスポーツブラを選んだのだが、それすらも片手しか使えない身体には拷問に近い難関だったのだ。
右手だけでゴム口をぐいっと引き伸ばそうとするたび、体幹がブレて固定された左手に力が入ってしまう。激痛が走るたびに「しまっ……」と息を呑み、額から冷や汗が噴き出した。
生地は途中で不恰好によじれ、胸の下で丸まって背中に届かない。肩ひもを通そうと右手を回した途端、布地がくるりとねじれて脇の下に食い込む。

「ん……っ、もう……」

自分の不甲斐なさに苦笑まじりの吐息が漏れる。焦って力任せに引っ張れば、不骨な固定具の硬い縁が胸元の柔らかい素肌に擦れ、ひりつくような痛みがじんと広がった。
荒い息を吐きながら、右手の指先を滑らせてなんとかストラップを肩へ引き上げる。けれど、片手で整えた胸元はどこか歪で、美しく収まってくれない。
汗で肌にへばりつく生地と格闘し、伸ばし、ねじれをほどき、まるで解けない知恵の輪を扱うように慎重に身体を動かす。
ようやく着け終えたときには、下着一枚の姿で胸を激しく上下させ、ぐったりと肩で息を吐いていた。

その上から羽織るシャツの小さなボタンも、気が遠くなるような作業だった。片手で薄い生地を押さえ、穴の位置を合わせようとするたびに、指先が空を切る。
もどかしさに拍車がかかり、肌の表面にじわりと甘い汗が滲んでくる。
焦れば焦るほど指先が不器用にすり抜け、つまんだはずのボタンがコロンと逃げていく。
爪を立てるようにしてボタンを穴に押し込み、引き寄せる動作を何度も繰り返し、すべてのボタンを留め終えたときには、うなじから背筋にかけてじっとりと不快な汗が伝っていた。
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