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父に刻印された身体
第5章 痛みが理性を狂わせる夜
それから一週間。日に日に手首の疼きは和らいでいくものの、不自由さがもたらすストレスは蓄積し、私の心は完全に限界を迎えていた。
ろくに洗えていない髪は重く、頭皮の不快感は増すばかり。
右手だけで何とかやり過ごしてきた着替えも、毎日が格闘の連続で、朝を迎えるのが憂鬱で仕方がなかった。
自分の体なのに、自分の思い通りにならない。その事実が、じわじわと精神を削り取っていく。
その日の夜、お風呂場を前にして、私はついに立ち尽くしてしまった。またあの、てるてる坊主のような防水の準備をして、片手で泡立たないシャンプーに泣きそうになりながら耐えるのかと思うと、どうしても足が前に進まない。私はリビングに戻り、ソファで新聞を広げていた父の後ろ姿を見つめた。
父はこの一週間、私を気遣いながらも、どこまで手を出していいのか分からずにそわそわとした視線を送り続けていた。
「……お父さん」
絞り出すような声に、父が弾かれたように振り返る。
「ちょっと、手伝ってほしいんだけど……いいかな」
私の言葉に、父は一瞬だけ目を見開いた。それから、新聞を丁寧に折りたたんでテーブルに置くと、少し照れくさそうに、でもどこかホッとしたような表情で
「ああ、いいぞ。何すればいい?」
と立ち上がった。
「髪を、洗ってほしくて。片手じゃどうしても無理で、全然すっきりしなくて……」
すこし声がかすれてしまったけれど、だからこそ余計に切実に響いただろう。目を背けさせないよう、はっきりとした輪郭を持たせて言葉を投げかけた。
父はぴくりと肩を跳ねさせ、わずかに目を見開いて振り返った。それから、どこか動揺を打ち消すように深く瞬きをひとつ。
頼みを受け入れて頷いたときの顔には、突飛な願いへの戸惑いとともに、父親として頼にされた喜びを隠しきれない幼い気配がにじみ出ていた。
「ああ……ああ、いいよ」
快諾したその声はわずかに弾みを帯びていて、私を『可愛い娘』だと疑わずに世話を焼ける安心感と、誇らしげな熱が混ざり合っているのが手に取るようにわかった。
それが、私という女の罠だとも知らずに。
ろくに洗えていない髪は重く、頭皮の不快感は増すばかり。
右手だけで何とかやり過ごしてきた着替えも、毎日が格闘の連続で、朝を迎えるのが憂鬱で仕方がなかった。
自分の体なのに、自分の思い通りにならない。その事実が、じわじわと精神を削り取っていく。
その日の夜、お風呂場を前にして、私はついに立ち尽くしてしまった。またあの、てるてる坊主のような防水の準備をして、片手で泡立たないシャンプーに泣きそうになりながら耐えるのかと思うと、どうしても足が前に進まない。私はリビングに戻り、ソファで新聞を広げていた父の後ろ姿を見つめた。
父はこの一週間、私を気遣いながらも、どこまで手を出していいのか分からずにそわそわとした視線を送り続けていた。
「……お父さん」
絞り出すような声に、父が弾かれたように振り返る。
「ちょっと、手伝ってほしいんだけど……いいかな」
私の言葉に、父は一瞬だけ目を見開いた。それから、新聞を丁寧に折りたたんでテーブルに置くと、少し照れくさそうに、でもどこかホッとしたような表情で
「ああ、いいぞ。何すればいい?」
と立ち上がった。
「髪を、洗ってほしくて。片手じゃどうしても無理で、全然すっきりしなくて……」
すこし声がかすれてしまったけれど、だからこそ余計に切実に響いただろう。目を背けさせないよう、はっきりとした輪郭を持たせて言葉を投げかけた。
父はぴくりと肩を跳ねさせ、わずかに目を見開いて振り返った。それから、どこか動揺を打ち消すように深く瞬きをひとつ。
頼みを受け入れて頷いたときの顔には、突飛な願いへの戸惑いとともに、父親として頼にされた喜びを隠しきれない幼い気配がにじみ出ていた。
「ああ……ああ、いいよ」
快諾したその声はわずかに弾みを帯びていて、私を『可愛い娘』だと疑わずに世話を焼ける安心感と、誇らしげな熱が混ざり合っているのが手に取るようにわかった。
それが、私という女の罠だとも知らずに。

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