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可愛いヒモの育て方。
第2章 ポスティング、参戦!

 確かにその人とは長続きしなかった。
 時が経ち、何人か別の人とも付き合っていくうちに、あの男の顔すら浮かばなくなった。恋慕なんて塗り替えられていくもの。その感覚も今ならよくわかるけれど、あの男とのそのやり取りだけは、八年近く経った今でも忘れることができなかった。
 こんな感じで、ふとした時に思い出す。ちりちりと、鈍い痛みを残していく。

「――……学ですよ」
「え?」

 麻人の声で、我に返った。

「何ぼーっとしてんすか? そっちから聞いたんじゃん」
「何を?」
「大学!」

 ああ、と思う。今それを答えてくれていたのかと、思い当たった。

「専攻は工学部、兄弟は姉が一人だけです。あーあと猫飼ってる」
「いいなぁ猫」
「あげないですけどー」
「もらってもあそこじゃ飼えないですけどー」

 麻人の口調を真似て言う。麻人がむっとした顔をするのが面白かった。

「……どうかしたんですか?」

 ふいに聞かれ、私は首をかしげた。

「何が?」
「いや、いきなり変なこと聞いてきたり、ぼーっとしたり。なんか気持ち悪いです」
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