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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 視線しか交わしてないのに、あたかも褥の上で素肌を晒して抱き合っているような濃密な情の通い合いが透けて見える。二人の絆と年月を何より物語るものだ。
 美桜の簡単な紹介から察すると、美桜を水揚げした、つまり最初の男がこの肥前屋なのだろう。美桜が借金のかたに苦界に身を沈めたのが十三歳のときだというから、二人の付き合いはかれこれ三十年近い計算になる。
 美桜と肥前屋の拘わりについて考え込む小紅の耳を肥前屋の声が打った。
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