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第12章 第一部･第三話　【月戀桜～つきこいざくら～】　十六夜の月

　栄佐の言うように岡場所に行ったのではないことは知っている。では、彼はどこにゆくのだろう？　こんな夜更けにたった一人出かけて、しかも夜中、帰らない。とすれば、どこへ―？　小紅には皆目、見当もつかない。
　その時、突如として、あの日の出来事が脳裏にありありと甦った。そう、前に栄佐が不審な深夜の外出をする前日、胡乱な男が長屋に栄佐を訪ねてきた。宇之助と名乗った男はどう見ても、堅気ではなかった。あんな危険そうな男と栄佐にどのような拘わりがあるのか、小紅は随分と気を揉んだものだ。