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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第16章 【戀月桜~つきこいざくら~】決着~安政六年四月五日宗徳寺 
 この男の澄んだ瞳はこの国のゆく末を真っすぐに見つめている。こんな人間がいる限り、この国の未来にもまだ希望がある。自分は侍というものが嫌で、武士という身分も角倉の家も棄てたけれど、龍馬のような男がいれば、幕府も侍の世の中もまだ棄てたものではないと思えた。
 栄佐は龍馬の向こうに満々と水を湛えてひろがる海を見ていた。何ものも包み込み、なお悠々とひろがる海、すべての生命の源である母なる海。
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