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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆
 その夜。
 小紅は父親らしい男が同じ江戸にいるとは露も想像もせず、内職の仕立物に精を出していた。
 仕立物を任せてくれている京屋では、ふた月前に婚礼が終わったばかりだ。新しい主人となったばかりの次男が今は京屋市兵衛を名乗っている。その十六歳の市兵衛の花嫁御寮はまだ十三歳。噂では、雛人形のように可憐な白無垢姿だったというが、あの幼さで江戸随一の大店の内儀(おかみ)が務まるのかとの心配もひそかに囁かれているという。
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