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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿
 今、小紅の眼前にひっそりと佇んでいる父はやや背中を曲げて、三年前よりもひと回りどころか、ふた回りも小さく貧相に見える。上州屋の主(あるじ)であった頃はたとえ身の丈は低くても、現実よりは威風堂々としてさほど小男には見えなかった。
 黒々としていた髪の毛も殆ど白髪交じりになり、伸びた月代や無精髭にも白いものが混じっている。櫛など通すことを忘れた髪はそそけだっていた。着ているものは垢まみれ、汚れまみれで、見ていられないほどだ。
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