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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第24章 第二部第五話 【冬柿】 父と娘
 笑い声の溢れていた上州屋のかつてが小紅の瞼に生き生きと甦る。情け深く理解のある主人として慕われていた仁助、慎み深く愛情溢れ淑やかだった母、そんな両親に見守られ愛されて育った日々。
 奉公人たちは皆与えられた待遇に満足して気持ちよく働き、小紅は彼らとは奉公人というよりは家族のように親しく接していた。
 もう、あの日々は戻らない。上州屋はこの江戸にはなく、仁助の代を最後に消えてしまった。大勢いた奉公人たちは散り散りになり、今どこでどうしているのかさえ不明だ。
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