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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第26章 第二部・第六話【春咲く花】 略奪
 しかし、栄佐がよく知る源五は幾らお家のためとはいえ、罪のない女を手に掛けるような人間ではなかった。可能性としてはやはり、母の回し者である方が強いと考えている。
―あい、私は確かに聞いたよ。あれは間違いなく女の声だった。 
 満月を見上げている栄佐の耳奥で、ふいに先刻の娘の声がこだました。何か嫌な予感に、栄佐は身震いした。どこからか夜風に乗って、かすかな花の香りが漂ってくるのは梅だろうか。
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