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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
 小屋掛けには酒樽の薦被(こもかぶり)(荒く織った筵)が使われていたので、この筵には各酒問屋、製造元の屋号などが入っているのが見えた。緞帳などもそうだが、三座のような格式のある劇場とはちょっとこの辺も勝手が違う。
 江戸時代、両国は文化と娯楽を堪能できる場所であった。ここで営業を許されるのは常設店舗ではなく、昼だけ営業して夜には片付ける類の見世である。髪結床や茶屋などの見世が処狭しと建ち並んでいるが、やはり両国橋から見て最初に眼を圧するのは数え切れないほどの芝居小屋であった。
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