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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
 小紅が飛び込んだのはむろん、客が押しかける劇場の入り口ではなく、裏口であった。裏口からは舞台裏(楽屋)に通じている。出演役者たちの控え室も近いはずだ。三座などは三階まで楽屋があるようだが、一般の小屋はそんな大層な代物ではない。
 大抵は立て役や役者座頭などの控え室は個室で、大部屋役者はその名のとおり、その他大勢が一緒の部屋を使う。適当に見当をつけて通路を歩いてゆくと、直に〝控え処〟と記された木札が眼に付いた。
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