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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第11章 第一部第三話【月戀桜~つきこいざくら~】 疑惑
 しきりにつま先だって覗き込んでいると、
―とうざのあいだ、ちりょう、おやすみいたします。             えい
(当座の間、治療お休みいたします。 栄)
 と、これもただの町人とは思えない流麗な手蹟で書いてある。もちろん、原文はすべて仮名文字である。栄佐のところに通ってくる患者には文字の読めない者もいる。当時、文字は読めても書けないという人はその日暮らしの貧しい民には多かった。読めればまだ良い方なのだ。
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