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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
 小紅は小首を傾げた。もう深夜を回っているというのに、栄佐はどこに行くというのだろう? 最初は厠(かわや)かと思った。長屋の住人は皆、共同で厠を使う。
 しかし、栄佐がこんな時間に厠に行くことはまずない。腹痛でも起こしたのかと心配して、小紅は外に出てみた。外はほの明るかった。ふと空を仰ぐと、紫紺の空に十六夜のふっくらとした月が掛かっていた。
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