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どこまでも玩具
第8章 任された事件

 嘘だよ。
 瑞希は大事な人って言いたかったんだ。
 そう訂正して欲しかった。
 類沢の指が頬をなぞる。
 「なんで泣いてるの?」
 涙。
 気づきもしなかった。
 「く……ふッッ……ぅ」
 号泣していた。
 なんで。
 そんなのこっちが知りたい。
 類沢の手が顔を包む。
 「やだっ……今は、や、んん」
 また唇を奪われる。
 たった今残酷なことを吐き出したその口で。
 俺はギュッと歯を噛み締め、受け入れなかった。
 すると、今度は指を入れられる。
 クチュクチュと掻き回され、拒絶する力も抜けていく。
 嫌だ。
 こんなの嫌だ。
 なんとか手足をバタつかせて抵抗する。
 「手足を縛って……」
 「痛っ……」
 「閉じ込めて」
 シャツのボタンに手をかけられる。
 「快楽しか感じさせなくして」
 そのまま衣服を破られる。
 冷たい爪が突起を引っ掻く。
 「あ、ぐッッ」
 「誰にも触れさせないように」
 鎖骨に顔を寄せる。
 そこに跡が付くくらいキスをする。
 「誰か他の人に感じたりなんてしないように」
 「…せ…んせ、ぁああッッ」
 起ちそうなそれを握られた。
 囁く声が脳を溶かす。
 「僕だけの玩具にしてあげたい」
 怖い。
 涙が止まらない。
 「優しい? 優しくなんてないよ。そう言ったはず」
 シャツを捲り上げ、腕を拘束するように結ぶ。
 「それを邪魔する奴は消してあげる」
 聞いちゃいけない。
 でも逃げられない。
 「もうあの三人に怖がる必要はないよ? 連絡も来ないから」
 安堵するはずの言葉が、冷たく突き刺さる。
 「雛谷だって……もう手は出してこれない」
 あの時間の恐怖を、今が勝る。
 「だから安心して」
 俺は類沢の手を掴む。
 「安心して玩具になれ……って?」
 精一杯の勇気だった。
 俺には尋ねることしかできない。
 確かめることしか。
 鼻をすする。
 「正直……っ、あんなことした……されたことより、優しくされたことの方が大きかった……」
 それが、これかよ。
 結局自分は、あの保健室から何一つ、類沢の中で変わってなかったんだ。
 「瑞希」
 ギューッと頭と肩を抱かれる。
 今までの言葉が嘘みたいに。
 「バカだね」
 ああ。
 その通りみたいだ。
 天井を見上げて、俺は感情を捨てた。

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