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どこまでも玩具
第8章 任された事件
 夕方になる。
 今日、週末だっけ。
 窓の外の夕暮れに首を傾ける。
 なら、類沢はどこに行ったんだろう。
 興味もない。
 でも、考えることが他にない。
 ガラスに触れる。
 額もつける。
 冷たい。
 「先生……」
 最低だ。
 あんなことして。
 こんなにも弄んで。
 全部を失った俺を更に傷つけて。
 半端な優しさで惑わせて。
 そんな……
 そんな奴をまだ信じてるなんて。
 最低だ。
 ブブブ……
 携帯が鳴る。
 そっとカーテンを閉じて、寝室に向かう。
 ベッドの脇に落ちていた。
 「……もしもし?」
 「みぃずき? 家にもいないから心配してたんだけど」
 やっぱり平日だったんだ。
 また休んだんだ。
 心配かけて。
 「あぁ、ごめん」
 「今、どこ?」
 隣に金原もいるんだろう。
 声がする。
 「どこにいるんだ?」
 「ちょっと待ってて、圭吾」
 「叔母さん家」
 「え?」
 俺はもう一度言った。
 「美里が大変みたいだから、呼ばれたんだ。急だったから、学校にも連絡できなくてさ」
 スラスラと。
 「……そっか。妹大丈夫?」
 「まぁ、あんまり」
 「そっちに何泊かすんのか?」
 「まだ決めてない」
 「明日から土日だし、ムリすんな」
 「うん……」
 涙が出て来る。
 「うん、大丈夫だから」
 自分の声が嘘を吐いてる。
 「瑞希」
 アカの口調が変わる。
 「なんかあったら言えよ?」
 口を押さえて堪える。
 だって、言えない。
 わざわざ家に訪ねて、辱められたなんて言えない。
 どんなに壊れそうか。
 助けて欲しいか。
 そんなの言えない。
 「……ありがとな」
 オフにする。
 まだアカがなにか云っていた気がした。
 携帯をベッドに投げ、床に座り込む。
 頭を掻き毟った。
 美里、ごめん。
 嘘の種なんかに使って。
 そうだ。
 会いにも行ってない。
 兄失格だな、俺。
 「あ――――――――……」
 体の空気全部吐き出して、深く息を吸う。
 ブブブ……
 またか。
 俺は携帯を見る。
 メールだ。
 類沢から。
 駅の近くの指定場所への呼び出し。
 ふざけてる。
 靴を履きながら悪態つく。
 なんで、俺行くんだよ。
 玄関を開けると、もう真っ暗になっていた。
 
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