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どこまでも玩具
第8章 任された事件

 今日だけは、一緒に休んで欲しい。
 そう、アカは言った。
 受験期とは言え、親友の命に関わる問題だ。
 金原と快諾した。
 「詳しく……聞いてもいいか?」
 午後にさしかかった所で、重い口をなんとか開いた。
 「このままじゃ、手探りすぎるからさ」
 アカは低く、そうだよなと呟いた。
 「父さんは、俺を息子として扱ったことはなかった。母さんがいないと、すぐに怒鳴って暴力も振るった。でも、そんなのは優しい方で……」
 留守番してる時の話に目が眩んだ。
 小学生を犯すか。
 父親が。
 口を開くのも躊躇われる空気が漂う。
 「初めてが父親とか終わってるよな」
 アカは空嗤いをする。
 だが、俺も金原も笑えなかった。
 息を吐き、ベッドにもたれる。
 「病院名だけは聞いて、一度も見舞いには行かなかったよ。ただ、看護婦に異常があったら伝えてくれって言ってさ」
 カーテン越しに太陽が揺らめく。
 「少年院から出てから外見変えて、家も出て行った。もう一度刺したい、トドメを、とか考えてたのに、どこか怯えてたんだろうな……父さんに」
 「一年前に脱走したって?」
 「あぁ。術後の回復が早かったらしくてな。全然身内が訪ねて来ないから、不審に思ったんだろうな」
 携帯を取り出す。
 「着信拒否にした」
 「……」
 「でも、非通知で来るだろうな」
 「警察には」
 「行ってなんてゆうの? 父親に狙われてるって?」
 「あ、いや」
 「……ごめん。みぃずきは悪くないのに」
 夕方まで、何を話していたかわからない。
 ただ、玄関で見送るアカの目が、見たことない位震えていた。
 不安に。
 恐怖に。
 父親に。

 「どうすべきなんだろ……」
 金原が石を蹴る。
 同じことをずっと考えている。
 無力だな。
 俺。
 「様子見るしかないよ」
 「それじゃ相談してきた意味ねぇだろ!」
 「俺だって一杯一杯なんだよっ」
 金原が黙る。
 つい、叫んでしまった。
 こんなの違う。
 なに云ってんだ、俺。
 「……悪い。初めは瑞希を守るって約束したのにな」
 「いいよ、もう」
 「……じゃな」
 金原は曲がり角に消えて行った。
 あぁ、くそ。
 自分に苛立つ。
 夕日を睨む。
 どうしたらいい。
 美里にも会いに行ってない。
 兄も友人も生徒も全うしていない。
 あぁ、くそ……
 ただ、歩いた。
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