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どこまでも玩具
第9章 質された前科
ガチャ。
「類沢せんっ」
視界が無くなる。
夜風が足元を流れる。
俺はギュウッと抱き締められてた。
「……先生?」
暖かい、逞しい胸に甘えたくなる。
だが、なんとかとどまった。
類沢はスッと離れ、不適に笑った。
「近くで飲んでたんだ。だから、すぐに来られたワケ」
訊いてもないのに。
でも、訊きたいことだった。
「捕まりますよ……」
「ノンアルだよ」
クス、と笑う。
凄く自然に。
あれ。
安心して、勢いよく涙が流れる。
あれ。
あれ。
なにこれ。
ボロボロと。
拭っても拭っても流れる。
俺は困って類沢を見上げた。
また抱き締められた。
「……バカな瑞希」
「先生……」
背中に手を回す。
久しぶりだ。
こんなに近いのは。
「ありがとう、ございます……来てくれて」
「じゃあ、話聞かせて」
いつまでもしがみついてる俺に、ここは玄関だと指で類沢は示した。
恥ずかしい。
リビングに座ってから俺は赤面する。
なに抱きついてんだよ。
あんなことしといて。
時間差で体が熱くなる。
類沢がお茶を淹れてくれた。
それを飲んで、息を吐く。
やっぱり。
俺の心を静めてくれるのはこの人だ。
不安を抑えて。
頭を冷やしてくれる。
「ちゃんと話せそう?」
「……はい」
類沢はコートを脱ぎ、ワイシャツ姿でソファにもたれる。
乱れた髪が、またいつもと違う。
「一つ、先に訊くけど」
「はい」
「なんで僕に相談しようと思ったの?」
だよなぁ。
俺は絶対訊かれると思っていたその質問への対策をなんにも用意していなかった。
顎を人差し指で掻く。
大した時間稼ぎにもならない。
「大人がいると心強い……から?」
「僕に訊くなよ」
苦笑いする。
本当になんでだろうなぁ。
なんで、嫌いじゃないんだろう。
憎くないんだろう。
瞬き一つの動作すら、目で追ってしまうんだろう。
でも、目が合うと逸らしてしまう。
そりゃ、後ろめたい。
自分勝手過ぎる。
離れようとして、しがみついて。
あぁ、うざい。
俺、超うざくない?
視線が泳ぐ。
仕方ない。
そんな想いも沸く。
曖昧な心が溶けて消えそうだ。
「瑞希?」
俺は姿勢を正して、勢いよく礼をした。
「すみませんでした!」