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どこまでも玩具
第2章 荒らされた日常
 30分前のことだ。

 玄関について、俺は溜め息をつく。
 朝も食欲が湧かなかったせいで体に力が入らない。
 上履きに足を突っ込み、階段に向かう。
 「宮内」
 篠田が背後から呼び止める。
 階段に掛けた足を下ろす。
 「……なんすか」
 苦手な教師だった。
 担任ではあるが、その本性の読み取れなさが嫌だった。
 安っぽい笑みを振りまいては急にキレ出す理解に難い教師。
 容姿からか、女子の間では“しののん“と呼ばれ人気高い。
 俺にはよくわからないが。
 篠田は黒いシャツに紺色のズボンという、いつもの格好だ。
 「ちょっと話がある」
 「今……?」
 「これについてだ」
 篠田が携帯を取り出す。
 差し出された画面を見て俺は愕然とした。
 そこに写っているのは、先日の悪夢の醜態。
 自分の裸体から目を逸らす。
 「……」
 「類沢先生から頼まれてな。コイツの行く末が心配だから見守って欲しいと」
 ふざけんな。
 昨日来た教師が何をいう。
 「会ったばかりの男に……ここまでやられちゃってな」
 篠田の含み笑いに戦慄した。
 「なぁ、宮内。こんな淫乱なヤツだったのか」
 周りの生徒が平和に笑いながら過ぎていく。
 俺だけ時が止まっている。
 「……何頼まれたんすか」
 予想はできた。
 類沢のことだ。
 まず先に担任を手中に収めようとしたんだろう。
 だが、俺はどこかで願っていた。
 半年担任だった目の前の男が、簡単に類沢の手駒になる訳ないと。
 「宮内瑞希の教育だ」
 その願いが音を立てて崩れてゆく。

 篠田は黙って俺を保健室に連れてきた。
 その扉を見るや、俺は腰が抜けた。
 冷や汗が吹き出し、前後不覚に陥る。
 逃げなきゃ。
 逃げなきゃ。
 動け。
 「おや、瑞希どうした?」
 保健室の扉が開き、類沢が顔を出す。
 間に合わなかった。
 蒼の目が捕らえた途端、俺の体は脳の指示から逃げ去る。
 「授業を受けるより、貴方に抱かれたいみたいですよ類沢先生?」
 こいつらは、ナニを言ってるんだ。
 腕を掴むな。
 頼む。
 その中に入りたくないんだ。
 離せ。
 口を塞ぐな。
 助けを呼べなくなるじゃないか。

 タスケテ。

 「あぁ……金原や紅乃木にバラされたい?」
 助けを呼ぶ権利なんて無いのに。
 「……誰か」
 保健室の扉が閉じられた。
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