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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
どうしてあなたは覚えているんだ。
おれがワザと助けたことを。
忘れてしまっていたなら良かったのに。
そしたら、悩むことなく、一昨日の朝に全てを終わらせられたのに。
この家に入った時点で。
鞄から取り出して。
たった数瞬で。
全部終わらせられたのに。
覚えているんじゃ、出来ない。
だって、それは誓いも続いているってことなんだから。
また、あの日に戻ってしまう。
みぃずき達が来なければ、きっと心が壊れるのが先で、二人とも息を絶ったかもしれない。
だから、ありがと。
そして、父さん。
あなたには二回目の貸し。
あなたはおれに二回目の借り。
生かしてあげる。
おれも生きたいから。
「いつか……」
アカは悲しそうに言う。
「いつか、父さんがあの誓いを忘れたら、借りを返してもらいに行く。その時は絶対に躊躇わない。だって、あなたはおれの人生を二回も壊そうとしたんだから」
ナイフを服の中に収める。
まるで、そこが居場所のように。
鎖を邪魔そうによけ、鞄を背負い、父の前に立つ。
「……生かしてあげる、か」
「そう」
父は顔を手で覆った。
「おれは……哲に生かされているのか」
「そうだよ」
「おれが守っていくはずだったのに……哲は」
アカが襟梛の手を握る。
久しぶりに息子に触れられたからか、彼女は涙ぐんだ。
「ちゃんと罪を償ってから、父さんは母さんを守るんだよ。働いて慰謝料でもなんでも払ってさ。おれじゃなくて、母さんを守るんだよ」
アカの目からも涙が溢れた。
「母さん……おれがいなければ、父さんと愛し合えていたはずなんだからさ……おれが二人の生活を傷つけたんだ、から」
襟梛が嗚咽を堪える。
そうだ。
この家族の最悪の結末は、妻だった襟梛が旦那だった父を殺してしまうこと。
窓から見える黒い車。
きっと、アカはそれを感じとっていたんだろう。
その原因も。
「幼稚園まではっ……あんなに幸せそうだったじゃん……母さんも、父さんもさぁっ」
「哲……」
「なんでっ、なんで……こうなってんの……みんなしてナイフ向け合って、言葉も通じなくなって。第三者が入ってくれなきゃまともに会話も出来なくて」
俺達を一瞥して、アカは首を振った。
「……違かったじゃん」